もしも、1枚の紙が仕事の安全と成功の命運を分けるとしたら?

製造業における保守要員の30%以上は、今でも紙に依存しています。

安全性、アジリティ、信頼性を高めるためにプラントメンテナンスの生命線をデジタル化

ダウ グローバルITイノベーションセンター長、Clark Dressen氏に聞く

協力:キンドリル 製造事業部 技術理事 兼CTO Jason Jackson

ダウの軌跡

ダウは、10 年以上にわたって製造業務のデジタル変革を推進してきました。その一環として、プラントメンテナンスのモダナイゼーションに焦点を当て、テキサス州フリーポートの拠点の改革を目指し、試験運用に乗り出しました。

20平方マイル(約51平方キロメートル) の敷地面積内に40の生産工場を擁するダウのフリーポート工場は、西半球最大級の総合化学工業施設です。

各工場には何千もの機械部品があり、その生産とメンテナンスはすべて手作業で行われています。これまでメンテナンスの作業指示を出す際には、コントロールルームのエンジニアが現場に出て、影響を受ける部品を検査し、紙のファイリングシステムから関連するプロセス文書を取り出して、安全分析レポートを書き、現場のオペレーターに渡す必要がありました。

その後、紙の安全分析レポートを現場に持ち帰って、生産やメンテナンスを行います。また、現場のオペレーターは、決まった手順でコントロールルームと連携する必要があるため、資料を手渡しするために何度も往復しなければならず、作業時間が2倍にも及ぶこともありました

また、オペレーターが印刷された工程表を見ながら、部品を検査し、時には遡ったりして、手作業ですべての工程を順番にチェックしていたため、安全上のリスクもありました。どれだけ細心の注意を払っても、ヒューマンエラーのリスクは残されていました。

ダウに34年勤務しているグローバルITイノベーションセンターのディレクター、Clark Dressen氏は、現場のオペレーションチームがより効率的かつ安全に作業できるプロセスを求めていることを理解していました。さらに、この課題の解決がプラントの生産性と信頼性を高めることにつながると確信していました。

「私たちが解決しようとした主要な問題の1つは、運用・保守作業の方法を変え、効率的に情報を現場に届けることでした。現場のプロフェッショナルが手元で情報を見られるような環境を整えることで、働き方、コミュニケーションの仕方、協力の仕方、問題解決の仕方などに影響を与えたいと考えたのです」とClark氏は言います。

「従業員の作業現場に効率的に情報を届けることは、私たちにとって非常に重要な業務改善の機会でした」

Clark Dressen
氏/シニアディレクター/ダウ

スピードと拡張性を持って、より安全な製造オペレーションを実現するには?

Clark氏の答えは、通信を含む業務のデジタル化とモダナイゼーションでした。まずClark氏は、ビジネスリーダーやCIO兼チーフ・デジタル・オフィサーのMelanie Kalmar氏とともに、ダウの社内外のテクノロジーパートナーを集めたデジタル・マニュファクチャリング・イニシアチブを開催しました。この取り組みでは、すべてのプロセス文書をデジタル化し、Microsoft Teamsを通じてリモートコミュニケーションを設定した上で、現場用の堅牢なデバイスをオペレーターに配布するとともに、コントロールルームのオペレーター用にARアプリケーションを実装する予定です。ちなみに、このARアプリケーションは、異なるオペレーションに関する複数の文書を扱う際に役立ちます。これらの計画の多くは、プライベートセルラーネットワークと、無線デバイス管理システムを活用します。  

 

「私たちのデジタル変革は、運用・保守担当者が直面する現実的な課題を解決するものです」とClark氏は言います。

「単に新しいツールやテクノロジーを提供するのでなく、それらをプロセスや作業手順、さらに日常業務に組み込むことが重要です」

Clark Dressen
氏/シニアディレクター /ダウ

接続における課題

現場業務のデジタル化にあたり、1つ大きな課題がありました。ダウのような大規模な工場の敷地では一般商用回線が利用できず、何トンもの鉄やコンクリートがいたるところに点在するため、無線ネットワークの構築は難しいのです。

このことから、正しい情報を現場の作業者に伝え、デジタルマニュファクチャリングという大きなビジョンを実現するためには、モバイル接続を行う必要がありました。

「Wi-Fiソリューションの導入も検討しましたが、今回のような広い地域で展開するのは困難です。フリーポートの工場は4つのエリアで構成されており、その中には工場、事業所、作業場所があります。このエリアをすべてカバーするためには、非常に高価で、維持・運用も困難になることが予想されました」とClark氏は述べます。

そこで、ダウの運用・保守チームとキンドリルは、フリーポート拠点全体を安全にカバーできるコスト効率の高いプライベートLTEネットワークの採用を決定しました。そして、その要件をまとめ、自営携帯ネットワークを構築して、ファイアウォールセキュリティを有効にし、セキュリティプロファイルを柔軟に管理するためのコンテナソリューションを作成しました。なお、約12ヵ月という短い期間で実証実験から本番環境への拡張までをすべてこなし、プライベートLTEネットワークを実装しました。

「日々の仕事のやり方を変えるという意味で、運用・保守チームに多くの新しいツールを導入しました。その際、キンドリルは、ダウの社内チームと協力し、セキュリティアーキテクチャーの観点からダウの環境に適合するように支援、提案してくれた、素晴らしいパートナーと言えます」(Clark氏)

パートナーシップの力を発揮

キンドリルの製造事業部のCTOであるJason Jacksonは、キンドリルとノキアのエキスパートで構成したチームを率いて、工場の周りに4本のポールを立て、それぞれに市民ブロードバンド無線サービス(CBRS、アメリカの公衆無線サービス)を利用したインテリジェント無線コアネットワークを設置しました。

そして、ノキアの無線デバイス制御システムを使って、デバイスの登録や無線端末のネットワーク管理を行いました。

 

テスト機器で安定した接続を確認した後、キンドリルとダウはIDアクセス管理ソリューションを導入しました。キンドリルはパロアルトネットワークスのファイアウォールとノキアのDigital Automation Cloudを使用して、セキュリティプロファイルとコンテナ化されたネットワーク機能を迅速かつ一貫して展開しました。これらの技術により、ダウはワイヤレスソリューションの提供を実現し、プロファイルに変更が必要なときにすぐにデバイスにアップデートを配布できる環境を構築しました。

 

新たなネットワークソリューションの導入に合わせて、ダウはマイクロソフトと協力して現場オペレーターとコントロールルーム間のコミュニケーションを可能にし、オペレーションをよりシンプルで安全、かつ生産的にすることができました。さらに、Microsoft Teams(以下、Teams)を使用することで、オペレーターは常に連絡を取り合うことができ、手順に関する作業をリモートで同期させ、完了したステップにデジタルで印をつけることで、ミスするリスクを最小限に抑えることができます。また、部品のライブ映像や録画映像をコントロールルームに送信したり、エンジニアリングチームをリモートで呼び出したりするなど、これまで数時間かかっていた作業安全報告書の観察や変更を数秒に短縮できるようになりました。

 

現場でのコミュニケーションをより安全にするために、キンドリルはTeamsにトランシーバーのようにボタンひとつで通話できる機能を搭載し、オペレーターが端末のロックを解除したり、アプリケーションに移動したりする手間を省くカスタマイズを行いました。また、ボタンを押すだけでコントロールルームにいるオペレーターとミーティングを開くこともできます。

 

またダウはマイクロソフトと連携し、制御オペレーターが装着型デバイスを通じてプロセス文書をより効率的に作業できるように支援するARアプリケーションの構築にも着手しています。このツールが完成すれば、コントロールルームのオペレーターは複数のプロセス文書による手順を同時に把握することができるようになります。

導入後の Progress

フリーポート工場では、デジタルマニュファクチャリング開始後の4カ月間で28,000以上の手順をデジタル化したことで、現場作業員がオペレーションとメンテナンス活動を完了するまでの時間を短縮し、作業員の安全性を向上させました。

 

  • 工程表のデジタル化により、紙の使用を大幅に削減し、現場オペレーターとコントロールルームのエンジニアとのリアルタイムなコミュニケーションを可能にしました。

  • 堅牢なデジタルデバイスを使用することで、コントロールルームのオペレーターは、現場で進行中の保守作業手順をリアルタイムに見ることができます。また、オペレーターとエンジニアが同時に同じものを見ることができるので、コミュニケーション時間を短縮することができます。ARアプリケーションでは、エンジニアが装着したデバイスを通して、プロセスドキュメントの操作を支援します。

  • 高度なドキュメンテーション機能により、現場の作業者はラボとコミュニケーションして、サンプルの写真やビデオを見ることができます。

  • 複数の手順を1つに統合することで、プロセスを合理化し、効率化を促進します。

  • 消防点検チームが消火器の点検をQRコードで確認するなど、ロジックを駆使して次のステップにスマートに進めるようになります。

  • プロセスがデジタル化されたことで、作業者はすべてのステップを踏まなければならなくなりミスが低減。

  • トラッキング機能により、手順漏れを検知・通知し、過去の手順から学習することができるようになります。

    フリーポートでのデジタルマニュファクチャリングの立ち上げに成功したダウでは、引き続きキンドリルと協力し、世界中の他の工場にもこのプログラムを展開する予定です。その際、フリーポートのチームは、現地のITおよびオペレーションリーダーのアドバイザーとしての役割を担います。より多くの拠点がプログラムに参加するにつれ、デジタル・マニュファクチャリングは、ダウの工場におけるデジタルワークフローによりよく対応するために進化し続け、いずれ高度なデリバリーフェーズに入ることでしょう。

デジタルマニュファクチャリングで私が期待していることは、現場の作業員が自らデジタル手順書を開発できるようになることです。拠点の数が多いので、IT部門がすべてのデジタル手順を開発することはできません。そのため、従業員が自らデジタル化できるように支援しています。

Melanie Kalmar
氏/CIO兼チーフ・デジタル・オフィサー/ダウ

ダウについて

ダウは、世界で最も革新的で、顧客を重視し、包括的で、持続可能なマテリアルサイエンスカンパニーになることをミッションにしたグローバル企業です。

 

  • グローバル展開:31カ国
  • 生産拠点:104拠点
  • 従業員数 35,700名以上

プロジェクトチーム

Melanie Kalmar

Chief Information Officer and Chief Digital Officer / Dow
Melanie Kalmar LinkedIn

Clark Dressen

Global IT Innovation Center Director / Dow
Clark Dressen LinkedIn

Onofrio Pirrotta

Vice President and Managing Partner / Kyndryl
Onofrio Pirrotta LinkedIn

Jason L Jackson

Distinguished Engineer and CTO, Industrial Sector / Kyndryl
Jason L Jackson LinkedIn

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引用元

*プラントエンジニアリング加入者のうち、メンテナンス担当を対象に調査。産業用メンテナンスレポート、CFEメディア・アンド・テクノロジー、2021年3月